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BALI PHOTO & WAYANG KULIT

魔
ただ忙しく、平坦な時代である。生活を貫く1本の道のようなものも、ない。管洋志は言う。「人間が本来持っていたはずの、瑞々しい感情や、豊かな日常が、我々から遠ざかってしまった。しかし、私はバリでそれに出会った」。
ジャワ島の東端、三重県ほどの面積の小島に220万人が住むバリは、人、寺院、自然が混然と融和し、狂気と寛容とに満ちている。それは物質で詰まった我々の日常とは異次元の、信じるもののある世界である。バリ ヒンドウー(古代ヒンドウー教と土着の自然崇拝とが混淆したもの)への信仰のもと、人々は自分自身に忠実に生き、その人間としての強さに管洋志はひかれる。
バリの濃密大気のなかに、神も魔も確かに存在している。人々はシワ神(シバ神)を信じるが故に、海に地に、四ツ辻にはいかいする魑魅魍魎を怖れる。内に潜む狂気の存
[[image]] 魔女ランダ
在を許している。正か邪か?バリの日常はそのすべてを抱みこみ、だからこれ、管洋志の写真は、我々の根源にさわれてこようとするのだ。

天
死は、始まりである。この世のすべてを捨て去って、魂は天界の神々の近くに達し、祖霊となる。そして再び人間としてよみがえり、地上に降りてくれのだ。回生である。だから葬いの儀式は、華やかでなければならない。柩は極彩色の華麗なバデ(葬式塔)に安置され、葬列は、死者が迷って舞い戻ることがないようにジグザグに練り歩く。火葬の光景は公開される(カラー面の写真)。世界でも稀なことである。嘆く者は、いない。
バリの人々は、人間として美しく死ぬために生きている。生まれたばかりの赤ん坊の魂は若く神のものだ。3カ月目の祖霊の入魂儀礼で、はじめて人間として誕生する。本当の成人となるのは、獣の名残りである門歯を削る儀式、ポットンギーギーを済ませてからだ。バリでは村の祭儀などの通過儀礼で、1年のほとんどの日が費やされる。神々と共に寝起きする日々。神々は快楽を好み、人々は、踊りや芝居、ガムラン音楽で熱狂的な日常の小宇宙な構築していく。

[image]バトウール寺院
不思議
バリは美しく自然は豊かである。人々は悠久の時間をゆったりと生きでいる。1日は未明のうちに始まり、農作業はあたかも楽しみのようである。そして午睡。夕刻の水浴をし食事を終え、夜が坊れる頃には、人々は濃密な自然のなかに溶けていく。だが1日に昼と夜があり、神と魔が同居するように、バリ。ヒンドウーは人間が内に秘めた表裏の世界を解放する。祭儀前に行きなわれる養鶏で、ある男は田畑を失い、またある男は祭儀のさなか自らの胸をクリス(短剣)で傷つけ、かみへの忠誠を夢中で示す。
夜半祭儀が終わる頃、数名の者には霊がとりつき、神がかりとなる。彼らは特殊な人々ではなく、バリではごく普通の人々である。
バリ。狂気と寛容が支配する不思議な島。束縛されず、強制されず、謎めいた風影に人間本来の豊かな日常を示してくれる土地。管洋志は2年の歳月を費した映像を通じて、それを我々に見せてくれる。

[image]オダラン(寺院の創立祭)
管洋志(略歴)
一九四五 福岡生まれ
一九七〇 「チベット難民」写真展
一九七三 「午后のアンダルシア」写真展
一九七七 講談社出版文化商受賞
一九七九 「男山笠」写真展
一九八三 「博多祇園山笠」写真集
「魔界 天界 不思議界 バリ」
写真集
現在、フリーランサーの写真家として、マスゴミの最前線で活躍

日本初公演、バリの影絵芝居 同時公演
フヤン  クリ
後援 国際交流基金 Wayang Kulit
演目 ヒンドウーの古代敘事詩
「ラーマーヤナ」「マハーバーラタ」より
開演時間 1 11:00a.m~12:30p.m.
2 3:00p.m.~4::30p.m.
(都合により開演時間が変更されることがあります)
フヤン クリ。フヤンじゃ影、クリは皮。バリのそれは、水牛の皮を細かく透かし彫りにした人形を、椰子油のランプで天幕に投影したもの。

[image]ワヤン クリ
操られる人形は極彩色に飾られ、天幕の裏もまた舞台となる。超人的な人形遣であり、かつ哲学者である語り手、ダラんの低い朗唱とともに影絵芝居は始まり、ヒンドウーの神々の教え、英雄の生涯、祖先の知恵を説さ、あるいは権力者を痛烈に批判し、怒涛のようにクライマックスを迎えて終わる。古代事詩をもとにダラんの即興にゆだねられたフヤン クリは、遠い時代を甦らせ、同時に今日をも物語るのだ。伴奏音楽は青金のグンデル(ビブラフォンに似ている)で、その唸りは死者の魂を天国に導くと伝えられている。
フヤン クリ特別公演のお知らせ
日時7月29日(金)30日(土)芝増上寺大殿
共催=増上寺
7月31日(日)鎌倉嫁人子供会館
お問い合わせ先 オフイス アジア
03−461−0993